奔馬

「豊穣の海」第2部「奔馬」を読みました。
第1部の主人公のダメダメ貴族青年が、死んで右翼青年に転生し、右翼テロを決起しようとして未遂に終わり、そのあとひとりで政財界の黒幕を暗殺し、自刃して死ぬ。おしまい。
(゜Д゜)ハァ? 勝手に死ねばぁ?
時代背景は、日本のファシズム化が進みつつあった昭和7年。三月事件、十月事件、血盟団事件五・一五事件などの右翼テロがあいついでいた時代。4年後にはあの二・二六事件が起こっている。
それにしても、洞院宮殿下、またしても余計な迷惑をこうむります。ほんとうにかわいそうです。
いちばん面白かったのは、裁判での主人公飯沼の証言。

飯沼: 刀剣屋に行きまして、なるたけ何気ない顔で、刀を売りたいのだ、と申しました。小さなおばあさんが猫を抱いて店番をしていましたが、三味線屋じゃ猫も居づらいだろうが、刀剣屋ならそんなこともあるまいとふと考えました。
裁判長: そんなことはどうでもよろしい。

ほんとにどうでもいいよ。そんなこと。
作中では70ページも費やして、明治初期の士族反乱である神風連の乱についての記述があり、主人公の飯沼も神風連の乱の精神に心酔してテロを起こそうとする。しかし、明治初期にあいついだ士族反乱と、昭和初期にあいついだ右翼テロを結びつけるのは無理がある。このことは作中でも本多が言っている。

歴史を学ぶことは、決して、過去の部分的特殊性を援用して、現在の部分的特殊性を正当化することではありません。・・・昨日の純粋さと今日の純粋さは、いかに似通っていてもその歴史的諸条件を異にすることを知るべきであり・・・

作中の本多の理性的な歴史観には僕も共感する。
ちなみに、明治初期の士族反乱といえば、長州藩脱退騒動、佐賀の乱秋月の乱萩の乱神風連の乱、そして最大にして最期の士族反乱である西南戦争
第1部「春の雪」のほうが、文章が絢爛で面白かった。第3部「暁の寺」では、主人公はタイのお姫さまに生まれ変わるらしいので、こんどぜひ読もう。姫様萌え〜なので。