鬼と悪魔

「鬼か悪魔のような」などと並び称される「鬼(おに)」と「悪魔(devil)」ですが、両者はかなり異なる存在です。鬼は日本固有種、悪魔は西洋からの外来種ですが、違いはそれだけではありません。表で比較してみましょう。

  悪魔
悪とされる理由 神に逆らうから 人間に害をなすから
または権力に反抗するから
人間への攻撃法 おもに悪事への誘惑という精神的攻撃 村を襲い、人を殺し、女をさらい、財産を奪うなど物理的攻撃
すみか 地獄または魔界
(人間界とは別の世界)
孤島(鬼が島など)や山岳(大江山など)
(人間社会に隣接する世界)
退治 神の力を借りないかぎり人間の力では退治不可能 武勇にすぐれた人間なら退治可能

こうして見ると、悪魔が宗教的・空想的な存在であるのに比べ、鬼はひじょうに具体的で現実に近い存在だと言えます。いや、はっきり言うなら鬼の正体は人間だろうと思われます。従来から言われていることですが、鬼の正体については次のような説があります。

  1. 朝廷の支配に抵抗する土蜘蛛、蝦夷などの先住民の末裔
  2. 盗賊団、山賊
  3. 落ち武者集団
  4. 鉱山師、製鉄を生業とする集団
  5. 修験者

いずれも山や島に隠れ住む、農耕社会から逸脱した存在です。中には反社会的行動に出るものもあったでしょう。鬼の正体とは広くこれらの総体だったのではないでしょうか。
江戸時代になって鬼がほぼ絶滅したのもうなずけます。日本の国土は、山や島にいたるまで、くまなく幕藩体制によって統治され、鬼が根城にする空間が失われてしまったからです。