古いノートを整理していたら、漢文訓読体の文章が出てきた。昔から古典が好きな僕はよく漢文体を真似た文章を書いたものだった。ここに載せるのは、大学時代の友人 江●氏に関するエピソードを記したものだ。文体だけでなく、文章の構成も非常に漢文的。原文といちおう現代語訳(笑)を付す。
【原文】
江●は下野の人なり。平成九年、大学に及第し洛陽に上る。電視を観るを善くし、漫動画を好まざること有り。人知を以って尊しと為し、神仏の宗旨を以って迷妄と為す。其の言説、常見に拘する無く、其の喩言、甚だ奇絶なり。
時に李徴謂ひて曰く「漫動画は作家によりて筆法千差、画風万別なるも、何ぞ其の同人誌、差異有るを見ざるか」と。
江●答へて曰く「魚は種によりて其の肉、赤き有り白き有り、固き有り柔らかき有り、其の味、淡白なる有り濃厚なる有りと雖も、其の腸に於けるや色黒くして味苦きこと斉し。漫動画に於ける同人誌、亦た斯くの如し」と。
李徴以為(おもへ)らく、魚腸は魚の臓腑にして、臓腑無き魚有るべからず。吾は同人誌を好まざるも、同人誌は猶ほ漫動画の臓腑ならん。
【現代語訳】
江●は栃木の人である。平成九年に大学受験に合格して京都にやって来た。テレビっ子であるが、マンガやアニメを好まないところがある。合理主義の精神を重んじ、宗教的迷信を嫌う。その語るところは常識にとらわれることなく、とても変わったたとえ話をする。
あるとき李徴が言った「マンガやアニメは作者によって作風がいろいろなのに、同人誌というのはどうしてどれも同じようなのだろうか?」と。
江●は答えて言った「魚は種類によって赤い肉のものや白い肉のもの、かたい肉のものややわらかい肉のもの、淡白な味のものや濃厚な味のものがあるが、ハラワタはどれも同じように黒くて苦い。マンガやアニメにおける同人誌というのは魚のハラワタのようなものだ」と。
李徴は思った。ハラワタは魚の内臓であり、ハラワタのない魚はありえない。私は同人誌を好まないが、やはり同人誌というのはマンガやアニメになくてはならないものなのだろう。