ギリシャ正教1ミリも知らない仏教徒が「アグニ・パルセネ」を和訳してみた

ギリシャ語の聖歌「アグニ・パルセネ」を和訳してみた。先入観を抱かないようになるべく英訳は見ずに難解な箇所のみ参考にした。(そもそもWikipediaにある英訳はぜんぜん原文に忠実でない気がする。)

Αγνή Παρθένε Δέσποινα, Άχραντε Θεοτόκε,
純潔の乙女よ、貴婦人よ ※1、穢れなき神産みの御方よ ※2

Παρθένε Μήτηρ Άνασσα, Πανένδροσε τε πόκε. ※3
乙女にして母なる女王よ、まるごと露を含んだ羊毛よ ※4

Χαίρε Νύμφη Ανύμφευτε.
歓べ 未婚の花嫁よ

Υψηλοτέρα ουρανών, ακτίνων λαμπροτέρα, ※5
天空よりもなお高く、陽射しよりもなお輝かしく

Χαρά παρθενικών χορών αγγέλων υπερτέρα. ※6
天使たちの合唱にもなお勝る乙女の歓びよ

Χαίρε Νύμφη Ανύμφευτε.
歓べ 未婚の花嫁よ

Εκλαμπροτέρα ουρανών, φωτός καθαροτέρα, ※7
天空よりもなお輝きを放ち、陽の光よりもなお澄みきって

Των ουρανίων στρατιών πασών αγιωτέρα.
天空の軍団その全てよりもなお聖なるかな

Χαίρε Νύμφη Ανύμφευτε.
歓べ 未婚の花嫁よ

「アグニ・パルセネ」の動画

ラトビア人の歌手 Aleksandra Spicberga さんによるギリシャ語とラトビア語による「アグニ・パルセネ」の歌唱。前半がギリシャ語だが、発音が現代ギリシャ語音とちょっと違うようだ。でも古典ギリシャ語音でもない。まあ、ラテン語の発音もイタリア式やらドイツ式やらあるし、そんなかんじかな?


※1 カトリックなら「聖母マリア」と訳すが、ここではその訳語は使えない。他の案としては、姫様、ひめみこ様、姫御前様、女領主様など、いずれも苦しい。
※2 正教会ではテオトコスを「生神女」と訳すらしいが、あまりに耳馴染みの無い訳語である。「神の母」という訳もあるが、ここでは原語に沿って「神産みの御方」とした。しかし「神産み」という語はイザナミノミコトを連想させてしまうかもしれない。
※3 「まるごと露を含んだ羊毛」というのは唐突で意味不明に感じるが、これは『旧約聖書』の『士師記』に記された士師ギデオンの故事をふまえたもののようだ。キリスト教では露を含んだ羊毛はマリアの処女受胎を象徴するらしい。
※4 πανένδροσε という語は辞書に見当たらないが、 παν + έν + δροσε で「全く露の中の(=まるごと露を含んだ)」の意味と解釈した。
※5 ~τέρα という語尾が頻出するが、これは形容詞の比較級の語尾。
※6 構文がよく分からない。「Χαρά παρθενικών」を「乙女の喜び」と訳してみたが、παρθενικών が複数形なのが解せない。
※7 εκλαμπροτέρα という語は辞書に見当たらないが、εκ + λαμπροτέρα で 「外に輝く (=輝きを放つ)」の意味と解釈した。