日本語の横顔(第3回)


3.日本語と韓国語(2) 漢字語

日本語と韓国語の2つ目の類似点は、漢字語が多く用いられていることである。ここでは、漢字語(字音語)とは、漢字の意味と発音(音読み)に基づいて造られた語と定義する。表記に漢字を使うか、仮名を使うか、ハングルを使うかはここでは問わない。日本語は、漢字かな混じりで表記し、大人の書くフォーマルな文章では漢字語はふつう漢字表記するが、韓国語は、北朝鮮でも韓国でも、ハングルのみを用いた表記が一般に行われており、漢字はあまり使われていない。それでも漢字に由来する語はやはり漢字語と呼ぶことにする。



漢字語は、漢字の本家である中国語からの輸入語だけでなく、日本や朝鮮半島で作られたものも多い。「民主主義」や「科学」など、現在よく使われている漢字語の中には明治時代に西洋語の翻訳のために日本人が造った漢字語が少なくない。その後も「無線通信」、「集積回路」、「符号分割多元接続」などなど、新しい漢字語は日々次々に生まれている。

日本語でも韓国語でも、学術語や抽象的な語彙の多くは漢字語である。これは日本列島も朝鮮半島も、中国文明の影響下で開化したという歴史による。日本列島も朝鮮半島も、中国の漢代あたりから中国文明の受容と国家の形成を始め、魏晋南北時代を経て、隋・唐代に統一国家を形成した。この間、儒教、仏教、律令制度その他もろもろの先進文化は、漢字というメディアによって、中国から、いまだ未開であった朝鮮半島、日本列島に伝わった。以降、近代に至るまで漢字語こそ文明語と認識され、固有語による高度な抽象概念の表現がついに発達しなかった。

もはや日本語でも韓国語でも、漢字語を排して固有語のみで高度な概念を表現することはほとんど不可能である。日常会話くらいならなんとかなるかもしれないが、このエッセイなど、どうやって固有語のみで表現すればよいのか?

ためしに上の文章を固有語のみで書いてみるとどうなるか

もはや、やまとことばでも、こまことばでも、まなをもちいずに、くにのことばのみでむつかしいことがらをあらわすことはほとんどできない。ひびのかたらいくらいならどうにかなるかもしれないが、ここにしるすふみなど、どうやってくにのことばのみであらわせばよいのか?

...何とか意味は通じるかもしれないが、苦しい。「こまことば(朝鮮語)」とか「まな(漢字)」とかふつう分からないだろうし、「固有語」を「くにのことば」などと訳すのはかなり無理がある。このように、日本語にとって、漢字語はもはやなくてはならないものになっている。これは韓国語にも言えることである。



次回は日本語と韓国語の大きな相違点である発音について述べる。