古英語

これは千年ほど前の古英語で書かれた文章です。いわば英語の古文ですが、さっぱり読めません。たぶん英語ネイティブでも読めないと思いますし、そもそもこれを英語だと思えるんでしょうか?

Fæder ure þu þe eart on heofonum, si þin nama gehalgod. To becume þin rice, gewurþe ðin willa, on eorðan swa swa on heofonum. Urne gedæghwamlican hlaf syle us todæg, and forgyf us ure gyltas, swa swa we forgyfað urum gyltendum. And ne gelæd þu us on costnunge, ac alys us of yfele. Soþlice.

謎の文字

  • 現代英語では使わない æ, þ, ð といった文字が使われている。
  • æ は a+e で 発音記号 /æ/ の音を表す。
  • þ と ð は th の清音 /θ/ または 濁音 /ð/ を表す。

ぱっと見で読める部分

  • 前置詞 on, of, 代名詞 we, us, 接続詞 and くらいしか読めない。
  • 綴りは現代と同じだが発音は違う。( we を /weː/ と発音するなど、ローマ字読みに近い )

推測でなんとなく読めそうな部分

  • fæder は father っぽい。(オランダ語では vader )
  • nama は name っぽい。
  • to は前置詞ではなさそう。to不定詞っぽく見えるが、ちょっと疑問。
  • becume は become っぽいが、ちょっと疑問。
  • rice は 現代英語の rice (米) ではなさそう。
  • willa は will (意志) っぽい。
  • todæg は today っぽい。 ( g → y という変化はありがちだし、ドイツ語で 日 は Tag )
  • forgyf は forgive っぽい。forgyfað もその変化形っぽい。
  • gyltas は guilty っぽい。gyltendum もその変化形っぽい。

よくよく考えると読めそうな部分

  • heofonum の -um は変化語尾だとすると、heofon は heaven ではないか?
    (上に挙げた forgyf → forgive のように f → v ではないか?)
  • gehalgod は 過去分詞 hallowed ではないか?
    (ドイツ語では過去分詞の頭に ge- が付く。g → w という変化もありがち )
  • gewurþe , gedæghwamlican, gelæd も ge-が付くが、これらも過去分詞だろうか? ちょっと疑問
  • gewurþe は ドイツ語の werden (なる) の過去分詞 geworden に似ている。
  • gelæd は ge- を取ると lead (導く) か?
  • rice は「王国」ではないか? (ドイツ語では Reich )

答え合わせ

Fæder ure þu þe eart on heofonum,
父(男単主) 私たちの(属格) あなた(主格) 関係代名詞 be動詞(二単現) on 天(男複与)
天にいます汝、我らの父よ、

si þin nama gehalgod.
be動詞(接続法, 単現) あなたの-名前が(男単主) 聖とされた(過去分詞)
汝の名が聖とされんことを。

To becume þin rice,
too 来ますように(接続法, 単現) あなたの-王国が(中単主)
また、汝の王国が来たらんことを。

gewurþe ðin willa, on eorðan swa swa on heofonum.
なりますように(接続法, 単現) あなたの-意志(男単主), on-大地(女単与) as on-天(男複与)
汝の御心が天になるように地にもならんことを。

Urne gedæghwamlican hlaf syle us todæg,
私たちの-(毎日の?: 不明な単語)-パン(男単対) (与えますように?: 不明な単語) 私たちに(与格) 今日
我らの日々のパンを今日も我らに与えんことを。

and forgyf us ure gyltas,
and 許せ(命令法, 単) 私たちに(与格) 私たちの-罪を(男複対)
そして、我らの罪を許したまえ。

swa swa we forgyfað urum gyltendum.
as 私たちが(主格) 許す(一複現) 私たちの-罪人たちに(男複与)
我らの罪人を我らが許すごとくに。

And ne gelæd þu us on costnunge,
and (not) 導くな(命令法 単) あなたが(主格) 私たちを(対格) into-誘惑(対格)
そして汝、我らを誘惑に導きたまうなかれ。

ac alys us of yfele.
but 解放しろ(命令法 単) 私たちを(対格) from-悪(与格)
むしろ、我らを悪より解放したまえ。

Soþlice.
本当に
まことにまことに。(アーメン)

  • ure (私たちの) が人称代名詞の属格なのか、所有限定詞なのかよく分からない。urne や urum のように曲用がある場合では所有限定詞と判定できるが、曲用語尾がゼロの場合(男性・単数・主格など)では人称代名詞の属格と見分けがつかない。後置される場合は人称代名詞の属格だろうか。
  • 同様に þin (あなたの) も人称代名詞の属格なのか、所有限定詞なのかよく分からない。
  • þu (あなた) / þin (あなたの) は、you / your ではなく、現代英語ではふつう使わない thou / thy につながる単語。
  • þu eart に対応する近代英語は thou art だが、you are に取って代わられて現代ではふつう使われない。
  • on+与格は現代英語の on / in に相当するが、on+対格は onto / into に相当する。これらラテン語やドイツ語の in と同様。
  • to は too に相当する副詞か?
  • becume の不定詞 becuman は be + cuman で、現代英語の become の語源ではあるが、意味は come に近い。
  • gewurþe の不定詞 gewurþan は geweorþan の表記ゆれ。geweorþan は ge + weorþan だが、意味は weorþan とあまり変わらないように見える。ドイツ語の werden に相当。
  • 同様に gelæd の不定詞 gelædan は ge + lædan だが、意味は lædan とあまり変わらないように見える。
  • gedæghwamlican と syle は調べても意味が分からなかった。上に書いた訳はラテン語原文と現代英語訳にもとづく。
  • swa は so または as に相当するが、as の意味では swa swa と2つ重ねることが多い。
  • eorðan の単数主格は eorðe で、earth の語源。
  • hlaf は loaf の語源。一塊のパンという意味の「ローフ」のこと。
  • forgyf は forgief の表記ゆれ。alys は alies の表記ゆれ。
  • of+与格は現代英語の from/out of に相当する。
  • yfele の単数主格は yfel で、evil の語源。一見すると綴りは似ていないが発音はそれほどかけ離れていない。

所感

  • 現代英語に比べると名詞も動詞も複雑な語形変化をする。
  • とはいえ、ラテン語などと比べるとすでに変化語尾がかなり擦り減っているかんじがする。
  • いっぽうで綴りは表記ゆれも散見され、ややこしいかんじがする。