中世って何かな?

(十数年前に書いた駄文を加筆修正)


おおざっぱに言って、「近世・近代」は近ごろ、「古代」は大むかし、「中世」はその中間なわけだけど、じゃあどこが境界なのか?


歴史の教科書では、日本史なら鎌倉〜戦国が中世。ヨーロッパ史ならローマ帝国崩壊までが古代、ルネサンスからが近代で、その間が中世ということになってる。


日本とヨーロッパ以外の歴史では、あんまり中世という用語を使わないけど、たとえばインド史にあてはめるなら、ヴァルダナ朝崩壊からムガール帝国成立までが中世っぽいかんじがする。イスラム史ならアッバース朝の有名無実化からオスマン帝国成立までかな。中国史には…うまく当てはめにくい。宋代あたり?


というふうに、なんとなくイメージするものはあるけど、じゃあ具体的に何をもって中世と言えばいいのか? いちばん典型的なケースとしてヨーロッパ史について考えてみる。


高校時代の歴史の先生の言葉を借りるなら、中世ヨーロッパとは「一言でいえばドラクエの世界」である。「ドラクエ」や「ロードス島戦記」や「スレイヤーズ」などに代表される、いわゆる「剣と魔法」系ファンタジーの世界は基本的に中世ヨーロッパを模した世界だ。


これらのファンタジー世界には、エルフやドワーフというようなゲルマン神話的な妖精・怪物のたぐいが登場する一方で、キリスト教っぽい宗教も存在し、都市には王様の城と並んで教会がある。これは中世ヨーロッパが王権と宗教という「2つの中心を持つ楕円」であることを端的に表してるように思う。


また「古代に高度な文明を持って栄えた大帝国が、蛮族の侵入などによって滅び、今は諸王国の分立時代だが、かつての文明には及ばない」という設定がしばしば見られる。この「古代の大帝国」のモデルはもちろんローマ帝国だ。


ローマ帝国は、ギリシアゆずりの高度な文明を持ち、ヨーロッパから北アフリカ・中東までを支配する大帝国だったけど、「蛮族」ゲルマン人の侵入やらなんやらで崩壊して、ヨーロッパは分裂状態となる。帝国の文明はゲルマン人を開化させたが、多くは忘れ去られてしまい、結局その復興はルネサンスまで待たなければならなかった。


帝国の崩壊によって貨幣経済は衰退して、城と教会を中心とした都市はほぼ自給自足の体制になる。そして都市の外は統治の及ばない領域。ドラクエはこの中世都市の姿をよく表している。草原の中に城壁で囲まれた都市がぽつんと存在する。都市は領主の城と教会を中心に営まれていて、都市の中は平和だが城壁を一歩外に出ればモンスターの跳梁跋扈する危険な世界である。現実世界にはもちろんモンスターなんて存在しないけど、統治の及ばない都市の外は危険がはびこる世界だったことだろう。


中世ヨーロッパはこんなふうにゲルマン民族キリスト教ギリシア・ローマ文明の衝突と混交が生み出したカオスな世界だ。古代帝国の文明と統治が失われた混迷と動乱の時代は長く続き、ルネサンス絶対王政によって再び文明と統治の時代、近代に入る。


中世というのは、つまり古代と近代という二つの秩序の時代のはざまにあった長い混沌の時代である。